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ティラノサウルス科の恐竜はいかにして獲物を捕食したか
このコラムでは、ティラノサウルス科の恐竜の食性について、取り扱っています。
- 肉食である証拠
- 噛む力が強いとされる理由
- ティラノサウルス科の恐竜はスカベンジャー(死肉捕食者)?それともハンター(積極捕食者)?
- ティラノサウルスはどんな生物を襲っていたのか?
- ティラノサウルス・レックスとて、危険な相手がいた
- ティラノサウルスはどのように肉を食べたか
- ティラノサウルスは共食いをしたのか
目次~ティラノサウルス科の恐竜はいかにして獲物を捕食したか~
ティラノサウルス科の恐竜が肉食であった明らかな証拠
ティラノサウルス・レックスの捕食行動については、広く研究が行われています。
まず、明らかなことは、ティラノサウルスは肉食だということです。 これは鋭い歯を見れば一目瞭然でしょう。
鋭い歯列をしたティラノサウルス科の恐竜の頭蓋骨の化石
ティラノサウルス・レックスに限らず、ティラノサウルス科に属する恐竜の歯は生える位置によって形が異なります(これを異歯性と言います)。
顕著なのは上顎の前歯「前上顎骨歯(ぜんじょうがっこつし)」です。獲物を引っ掛けて引き寄せるために使われたため、明らかに他の部分の歯とは異なるフォルムをしています。
内側に平らな面を持つ独特なフォルムをしたティラノサウルス・レックスの前上顎骨歯(弊社売却品)
一方で、側面の歯化石は太く丸みを帯びています。これを獲物の肉を噛み潰すために進化したと見られます。一般に図鑑などに掲載されているティラノサウルスの太い歯はこの部分の歯(ポイントツゥース、犬歯と言います)です。
非常に分厚いティラノサウルス・レックスのポイントツゥース(弊社売却品)
ティラノサウルス科の恐竜の噛む力が他の恐竜を凌ぐ理由
ティラノサウルスは、強力な顎を持ち、顎を比較的自由に動かすことができ、横方向にせん断する力も強かったと考えられています。
2013年に発表された論文のなかで Thomas R. Holtz Jr.は、ティラノサウルス科の生物の強靭な咬合力は、
・前上顎骨歯
・融合した分厚い鼻骨
によるものだと述べています。
実際、ティラノサウルス科以外の生物では、前上顎骨歯のような歯は存在しません。
また、歯根がとても長いのも、力強い咬合力(噛む力のこと)を生み出す上で重要だと述べています。
ティラノサウルス科の歯の歯根は歯冠に比べておよそ二倍の長いのに対して、他の獣脚類は通常、一対一の割合です。
歯根が非常に長いティラノサウルス・レックスの歯化石の精巧レプリカ(弊社販売品)
また、一般的な獣脚類恐竜では2つに分かれている左右の鼻骨が一つに融合していることで、強く噛み締めたときに頭部にかかる大きな圧力に耐えられる構造になっています。また、他の獣脚類と比べて、鼻骨と上顎から作る骨の厚みがあるのも特徴の一つ。鼻先が丸みを帯びて見えますね。
ティラノサウルス・レックスとアロサウルスの頭骨の厚みの違い(精巧レプリカによる比較)
ティラノサウルスは顎を閉じる筋力が発達していたため、噛み締めたときに顎にかかる圧力も相当なものだったと推察されます。それに耐えうるだけの構造になっていた点は注目に値しますね。
また、2012年に発表されたティラノサウルス科の顎の研究(リバプール大学の生体力学の専門家、Karl Bates、およびロイヤル獣医大学の古生物学者Peter Falkingham)によれば、ティラノサウルスの噛む力は、およそ35000から57000ニュートンであると推定しています。これは、現世最強のワニのおよそ10倍に及ぶ咬合力です。ティラノサウルス・レックスはその時代、その地域において、最強の咬合力を持つ生物であったことは間違いなさそうです。
当時最強の咬合力を誇ったティラノサウルス・レックス(CG制作:藤田 大)
ティラノサウルスはスカベンジャー(死肉捕食者)だったのか、それとも生きた生物を襲うハンターだったのか?
ティラノサウルス・レックスはハンターだったのか?それともスカベンジャーだったのか?(CG制作:藤田 大)
この話題は、古くから論じられてきました。
ティラノサウルスがスカベンジャー、つまり死肉捕食者だという根拠として、古生物学者のジャック・ホーナーは以下のような主張をしました。
前肢が短すぎて生きた生物を捕らえることができなかったのではないか?
この反論として一部の古生物学者は、
現世のオオカミやハイエナのように、前足を使わない捕食者がいる
と述べました。
スカベンジャーであることを押す他の論拠としては
ティラノサウルスの大きな嗅球(きゅうきゅう)は、現世のハゲタカ同様、遠くからでも死骸を嗅ぎ分けるために進化したのではないか。ゆえにスカベンジャーである可能性が高い。
というものがあります。これについては、
優れた嗅覚は、死骸を嗅ぎ分けるためだけに発達したとは限らない
という反論があります。また、
現世のオオカミは非常に嗅覚が優れているが、スカベンジャーではない
という事実もあります。
スカベンジャー説を押す他の論拠としては、「ティラノサウルス科の恐竜の太くて強い歯」があります。
死骸の骨を砕き、内部の骨髄を摂食するために、太く強い歯に進化したのではないか
というのです。
これに対して、
現世の積極的なハンターであるシャチやワニも同様に太い歯をしているではないか
という反論がなされました。
スカベンジャー派の主張として、ほかに
ティラノサウルス科の成体は巨大すぎて小回りがきかず、素早く動く生きた獲物を捕食できなかったのでは?
というものがあります。
一般的な2階建てファミリーレストランとティラノサウルス・レックスの比較(CG制作:藤田 大)
これに対しては、
確かにティラノサウルスは現世のハンターよりは鈍足ではあるだろうが、比較的足が遅かったと思われるハドロサウルス科の恐竜や角竜類の恐竜を捕食することはできた
という反論があります。
ハドロサウルスをおいかけるティラノサウルス(CG制作:藤田 大)
また、純粋なハンターであったことを示す根拠が多数あります。
両目が前方を向いていて、前方の動く獲物をよく捉えることができた。
これを両眼視(りょうがんし)と言います。
両眼視とは、両眼で前方の物体を捕らえる視覚の特徴をさします。
現世のハンターの多くは、この両眼視の特性を持っていますので、ティラノサウルスも動く生物をしっかりと視認することができた可能性があります。
両眼視の特性を備えたティラノサウルスの頭部と眼(CG制作:藤田 大)
2013年に発見されたエドモントサウルスの尾骨の化石から、ティラノサウルスのものと見られる歯の先端が見つかり、しかも、その周辺に新しい骨の成長の痕が発見された
つまり、
そのエドモントサウルスは一度噛まれたあと、ティラノサウルスから逃げ切り、生き延びたことを意味している
これによりティラノサウルスは生きた獲物を襲った可能性が高まりました。証拠と言っても良いかも知れません
トリケラトプスの角からもティラノサウルス・レックスが噛んだと思われる痕が見つかっていて、さらにその後、新たに成長した箇所があります。つまり、ティラノサウルスは生きたトリケラトプスと闘争をしていた可能性が極めて高い
ということです。
ティラノサウルス・レックスと対峙するトリケラトプス(CG制作:藤田 大)
仮にティラノサウルス・レックスがスカベンジャーであったなら、その時代、その地域には、別に、強力なハンターが存在していたことになります。なぜなら、死肉捕食者であるならば、まず他のハンターが獲物を殺していなければいけないからです。
そうなると、その候補はドロマエオサウルスやトロオドンということになるのでしょうか。
これについては、2011年の下記の論文のなかで、否定されています。
Intra-guild competition and its implications for one of the biggest terrestrial predators, Tyrannosaurus rex Chris Carbone,1,* Samuel T. Turvey,1 and Jon Bielby1,2
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3136829/
そういった小型の捕食者たちの頭数は少なくないと考えられるため、捕えられた獲物は瞬く間に消費され、大型の死肉捕食者が生命を維持するだけの十分な肉を得られるチャンスはなかっただろう。ゆえに、ある程度大型の獲物を自らの力で捕獲せざるを得なかったと考えられる。
というのです。
こうして様々な観点から、最近では多くの古生物学者が
ティラノサウルスは、活発なハンターであり、同時にスカベンジャーでもあったと認め始めています。
しかし、まだ完全なスカベンジャーであることを支持する学者もいることも付記しておきたいと思います。
ティラノサウルスはどんな生物を襲っていたのか?
よく図鑑などではティラノサウルスが巨大なトリケラトプスを相手に戦っている様子が描かれていますが、実際にはどうだったのでしょうか。巨大なトリケラトプスを頻繁に捕食していたのでしょうか。
激しく競い合うティラノサウルス・レックスとトリケラトプス(CG制作:藤田 大)
最近の研究によると、そうではなかったようです。現世のハンターと同様に、トリケラトプスやエドモントサウルスの成体ではなく幼体を好んで襲っていたと考えられています。
トリケラトプスの幼体を襲うティラノサウルス・レックス
また、ティラノサウルスは成長の段階に応じて、狙う獲物を変えていたという研究もあります。KTBatesとPLFalkinghamの2012年の研究では、ティラノサウルスの幼体と成体では、噛む力にかなりの差があることが分かりました。幼体時には、まだ噛む力が弱く、より小さく弱い生物しか襲えなかったというのです。
これにより、若いティラノサウルスと成体のティラノサウルスで、捕食競争はあまり発生しなかったと考えられています。
一説によれば、若いうちは、比較的高速で走ることができたが、年齢を重ねるごとに筋力や体重が向上するかわりに、敏捷性を失ったというのです。ティラノサウルスの寿命はおよそ30年程度だと考えられていますが、その一生で、好んで捕食する対象が変化していったのでしょう。年齢を重ねるごとに、他のハンターが捕獲した獲物を盗んで食べるようになったのかもしれません(高齢時スカベンジャー説)。
幼体のトリケラトプスを捕食するティラノサウルス・レックス(CG制作:藤田 大)
ティラノサウルス・レックスとて、危険な相手がいた
成体のトリケラトプスなどはティラノサウルス・レックスにとっては強敵だったに違いありません。相手によってはレックスよりもさらに体格がよく、鋭く太い角を3本も有しています。もっと弱い獲物がいるなか、わざわざ成体のトリケラトプスを狙うことはしなかったでしょう。
獰猛なトリケラトプス(成体)の集団と対峙するティラノサウルス・レックス(CG制作:藤田 大)
では、ときにティラノサウルスのランチと評されるハドロサウルスについてはどうでしょうか。ハドロサウルスも成体ともなれば、立派な体格を誇ります。また後肢は極めて太く頑丈で、バックキックを喰らえば、ティラノサウルス・レックスといえど無事ではいられなかったでしょう。群れからはぐれた幼体を狙うことはあっても、わざわざ成体を狙うことはなかったでしょう。
一般的なファミリーレストランとハドロサウルスのサイズの比較(CG制作:藤田 大)
ティラノサウルスはどんな風に肉を食べたか
いくつかの研究では、ティラノサウルスの捕食の仕方について説明がなされています。ティラノサウルスなどの獣脚類恐竜は、現世のワニのように首を横に振って肉をちょうどよい大きさに噛み切ったあと、少し上に振り上げて捕食したと考えられています。ティラノサウルス・レックスは非常に強靭な首を持っているため、獲物の肉を容易に上方に放り上げることができたと考えられています。
獲物を持ち上げ口に放り込むティラノサウルス・レックス(CG制作:藤田 大)
ティラノサウルス同士の関係
古生物学者のピーター・ラーソン氏が史上最大級のティラノサウルスの全身骨格、”Sue(スー)”を調べた結果、肋骨や尾椎、顔面や首などに別のティラノサウルスによる攻撃の痕と思われる歯の一部が残っていたことを発見しました。これが獲物の奪い合いによるものか、はたまた仲間同士の共喰いによるものなのか、まだはっきりとは分かっていません。
間違いなく言えることは、ティラノサウルス同士が互いに争っていたことです。
争うティラノサウルス・レックス(CG制作:藤田 大)